もし美咲くんと猿比古くんの性格が正反対だったら




「よお、猿。こんなとこで会うなんて奇遇だな」
「奇遇じゃないし、堂々と待ち伏せてた奴が何言ってんだ。てか美咲、俺は仕事中なんだ、邪魔すんな消えろ。あと猿って呼ぶな」

凄まじいマシンガントークを吐き出した伏見の顔は、全力で嫌悪感を滲ませている。
対する八田の顔は、俗に言うとてもいい笑顔というやつだ。

「んなつれないこと言うなよ。で、お前はいつ吠舞羅に戻ってくるんだ?」
「お前がいる限り未来永劫戻らねえよ」

このやり取りも、もう何回したかわからない。
伏見と共に見回りをしていた秋山から溜息が零れる。


伏見猿比古の不幸は、中学時代に八田美咲に出会った時から始まった。
八田にとっては運命の出会い。
伏見にとっては最悪の出会い。むしろ出会いたくなかった。
何故あの日あの時屋上に自分はいたのか。
授業まともに受けとけばよかったと、どれだけ嘆いたか分からない。

一目惚れしたと豪語する八田にほぼ毎日追いかけられ(何故か俺のいるところが分かるらしい。恐い)、段々と諦めがついて一緒にいるのが当たり前になり始めた頃に出会った赤の王。
その力に惹かれ、誘われるまま伏見は吠舞羅に入った。
当然のように八田も一緒に加入した。

痣が同じ場所にでた時なんて、やっぱり運命だとかなんとか言って抱きついてきた。
すぐ殴り飛ばしたけど。

伏見への執着以外は割とまともな八田は、吠舞羅にもすぐに馴染んだ。
元来の気質が吠舞羅に適していたため、それは必然とも言える。
逆に伏見は人見知りが災いして、チームの雰囲気にはなかなか馴染めなかったが、草薙のさりげない気配りにより徐々にそれも解消されていった。
八田のように中心になることはないが、主に草薙の側で仕事を手伝ったり、有事の際にはその頭脳を生かして吠舞羅に貢献する日々。
そんな伏見にとって充実した日々は、ある日あっさりと崩れ去る。

お決まりのカウンター席で、草薙の入れてくれたカフェオレを飲みながら、馬鹿騒ぎをするメンバーを見ているのも当たり前になった頃、それは起こった。
伏見が告白をされたのだ。それもチームメンバーの一人である男から。
そしてそれを運悪く八田に見られた。
悪い予感がした伏見が何か言う前に、八田は告白した男を殴っていた。
悪い予感的中である。
伏見が止める間もなく八田は言い放った。
猿比古は俺のものだから近づくな、と。

吠舞羅ほど結束の強いチームでこの話が広がらないはずがなく、翌日にはほぼ全員からなんとも言えない目で見られることになった伏見と八田。
八田は気にしてないようだが、伏見にはたまったもんじゃない。
やっと馴染んできたメンバーからの冷たいような視線に伏見は耐えきれず、チームを抜けた。

ちなみに、八田の伏見への執着は実はメンバーには周知の事実であり、この時の視線は伏見への憐憫だったのだが、状況的にメンバーとまともに話もできなかった伏見はそのことに気づかなかった。不憫すぎる。

そんなわけで吠舞羅を抜けた伏見はセプター4に入った。
理由は簡単。八田が唯一追いかけてこれない場所だからである。
これは伏見の思案通りで、青い隊服を着た伏見を見たときの八田の顔はそれはもうひどいもので、しばしば伏見の鬱憤を晴らす役目として役立った。

この裏切り者がぁ!!と叫ぶ八田に、誰のせいだ誰の!!!と叫び返す伏見。
この時ばかりは、吠舞羅もセプター4も皆が伏見に全力同意したのは言うまでもない。

だがしかし、人とは慣れる生き物である。
それは八田も例外ではなく、今となっては事あるごとに仕事中の伏見の前に現れ、吠舞羅に戻るよう勧誘する日々だ。
屯所にいる時はさすがにないが、見回りだったり出動だったりと、外に出る時は必ず現れる。
最初はアンナの力かと疑った伏見だが、それは違うと草薙から聞いている。

そもそも、伏見が吠舞羅から抜けたことをかなり悲しんでいたアンナが、抜ける最大要因の八田に力を貸すはずがなかった。
つまり、八田は自分の力で伏見の居場所を把握し追いかけているわけだ。

ストーカーか。


目の前でスケボーを構える八田を見据えながら猿比古は思う。


やはりあの日あの時、屋上に行かなければよかった…と。